カテコールアミン生合成の律速酵素であるチロシン水酸化酵素は、長時間刺激による神経細胞の興奮や持続的ストレスなどにより、交感神経系や副腎髄質においてその酵素活性並びに酵素蛋白が増加してくること(酵素誘導)が知られております。しかしながら細胞刺激から酵素誘導に至るまでの詳細な機序については十分に理解されておりません。 今回著者は、そのモデルとして培養副腎髄質細胞を用いて(1)細胞刺激一情報伝達系、(2)細胞刺激一カテコールアミン生合成及び(3)チロシン水酸化酵素mRNA転写調節機序に関する研究を行いました。その結果(1)に関する研究では(1)細胞をオカダ酸(プロティンフォスファターゼ阻害剤)で長時間処理するとカルバコールによるカテコールアミン分泌が抑制されそれはCa^<2+>流入抑制によ、ること(2)ベラトリジンで細胞を刺激するとCa^<2+>流入に続きジアシルグリセロール産生の増加とプロティンキナーゼCの活性化が生じる、(3)Ca^<2+>/カルモデュリンキナーゼIIスタウロスポリンによって阻害されること等が明らかとなり報告した。(2)に関する研究では(4)ナトリウム利尿ペプチドーであるANP及びBNPはcyclic GMP産生を増加させることによりチロシン水酸化酵素のリン酸化と活性一化を引き起こし、(5)ウニ毒はニコチン性アセチルコリン受容体一イオンチャンネルを阻害することによりカテコールアミン生合成及び分泌を抑制する(6)培養細胞を臨床治療濃度のリチウムで1週間処理するとカテコールアミン生合成、分泌及びチロシン水酸化酵素活性が増加してくること、これにプロティンキナーゼcが関与している可能性が示され報告した。(3)に関する研究では(7)オカダ酸で培養細胞を処理するとチロシン水酸化酵素活性が上昇し、一方そのmRNAは逆に減少しているこ。とがわかった。更に培養細胞をNaCI高張液で数日間処理しておくとチロシン水酸化酵素活性及びそのmRNAレベルが増加してくることがわかった。この様にチロシン水酸化酵素活性の増加とmRNAレベルの増加が相関している場合や、逆にmRNAレベルを低下してる場合もあり、チロシン水酸化酵素mRNA転写調節機序を考える上において興味ある結果だと思われた。今後この転写調節機序についてもう少し詳しい検討が期待される。
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