研究概要 |
1.視文叉上核(SCN)の機能的可塑性。眼球摘出(後天的)盲目動物(ラット)では摘出後4〜6週目にはSCN破壊時と同様に2-deoxy-D-glucose(2DG)脳内投与やSCN電気刺激による高血糖及び高グルカゴン血症反応が消失しているが,12週目までにはこれらの反応が回復すること,及びこれらと平行して食餌中の蛋白質の摂取が変化することなどを見出した。これらの事実はSCNが食質選択を含むエネルギー代謝調節に関与し,この機能が網膜からの神経連絡によって維持されていることを示唆している。また,健常動物の眼球を光照射すると,SCN腹側部にc-Fosの発現が認められるのと共に交感神経が興奮し,副交感神経の活動が低下するが,これらの変化はSCN破壊動物では認められないことも観察しており,上記の考えを支持している。2.CSNの形態学的可塑性。上記の後天的盲目動物では機能異常の出現する眼球摘出5週目にはSCNの細胞が「たが」のはずれたように広がって存在するが,機能の回復する摘出10週目にはそれらの細胞が再び「たが」のはめられたごとくに密度高く存在するようになる。また,同様のSCNの機能異常が認められる先天的盲目動物である遺伝子小眼球症ラットでもSCNの容積と細胞数が著しく減少し,形能異常が認められた。3.SCNでのがん原遺伝子産物。明暗情報を網膜から伝達する神経路が到達するSCNの腹側部のc-Fos発現には日周変動が認められ,12時間毎の明暗周期下では明期開始前に最低値を,暗期開始前に最高値を示す。しかしながら,この様な変化は盲目動物では認められなかった。高血糖を引き起こす2DG投与や低血糖を引き起こすインスリン投与によりSCNにc-Fosの発現が認められたので,現在,上記盲目動物でのSCNでのこれらc-Fosの発現について検討している。SCNにはBDNF受容体であるTrkBが認められた。
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