研究概要 |
イノシト-ル1,4,5ー三リン酸(IP_3)は細胞内小胞体の含有するCa^<2+>を放出させることにより,細胞内情報伝達系の重要な一翼を担っている。我々は一昨年来,細胞内でIP_3を認識する蛋白質(小胞体上のIP_3受容体やIP_3代謝酵素)の活性中心の構造を調べるため一連のIP_3アナログを化学合成し,IP_3認識蛋白に対する影響を検討してきた。その一連の流れの中でIP_3親和性カラムも作製した。本研究では,このIP_3親和性カラムを用いた研究を遂行し以下の結果を得た。 ラット大脳可溶性分画をIP_3カラムにアプライし,2MーNaClを含む溶液で溶出するとIP_3代謝活性を有しないのに強いIP_3結合活性のあることがわかった。この分画をゲルロ過クロマトグラフィ-によりさらに分画すると,分子量130kDaと85kDaの両蛋白が強いIP_3結合活性を担っていた。濃縮してそれぞれの精製蛋白を得た。両蛋白とも結合はIP_3に対して特異的で,かつ1〜3nM程度の高い親和性を有していた。精製蛋白をリジルエンドペプチダ-ゼで限定分解の後,疎水性クロマトグラフィ-により分画した。それぞれ得られた3種のペプチドのアミノ酸配列夜求め,SwissーProtデ-タベ-スでホモロジ-検索を行なった。130kDaの蛋白に類似した蛋白は見い出せなかったが一方,85kDaの蛋白はホスホリパ-ゼC(PLC)のδ型アイソザイムと同じであった。130kDaの蛋白の作用は現在のところ全く不明である。85kDaのPLCδがIP_3結合活性を有していたことから,IP_3のPLCδ活性に及ぼす影響を調べた。その結果,IP_3はμMの濃度範囲でPLCδ活性を抑制することがわかった。生理的には細胞内のIP_3濃度はμMレベルで変化することが知られており,この抑制は生理的意義のあることかもしれない。 これら両IP_3結合蛋白とも可溶性分画のみならず,膜分画の界面活性剤による抽出液中からもほぼ同様の技法で精製された。
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