研究概要 |
グルタチオントラスンフェラーゼP(GST-P)遺伝子の発現は,ラット肝化学発癌において顕著に上昇する。その機構を解明するため,5′上流領域を解析しエンハンサーとサイレンサーの機能について以下のことを明らかにした。 1)エンハンサーGPE1にはプロトオンコジーンc-junが密接に関わっていることをすでに報告しているが,これとは異なる蛋白質もGPE1に働いていることを見いだした。 2)GPE1は調べた全ての培養細胞で強い活性を示すが,この遺伝子は正常肝では発現していない。初代培養肝細胞を用いて検討した結果,GPE1をプロモーターの近くにつなぐと活性を示すが.nativeな位置では不活性であった。すなわち,正常肝においてはGPE1エンハンサーがあらわれない何らかの機構があると思われた。 3)サイレンサー結合蛋白質SF-Bをクローニングしたが,興味あることにIL6誘導性の転写活性化因子NF-IL6と同一の遺伝子であった。一つの遺伝子より活性化因子と不活性化因子ができることは非常に興味深くこの現象が発癌過程におけるGST-P遺伝子の活性上昇にどのように関わっているかは今後の課題である。 4)GST-P遺伝子の発現様式にはつぎの2つの可能性が考えられる。一つはある癌関連遺伝子のそばにGST-P遺伝子があり,この癌関連遺伝子の活性化に伴いGST-P遺伝子もいっしょに活性化される可能性,もう一つは,染色体上の位置には全く関係なく共通の転写因子によって活性化されるというものである。トランスジェニックラットを作製し化学発癌実験を行ったところGST-P遺伝子の5′制御領域は染色体の位置に無関係に癌化に伴い活性化されることが明らかになった。この結果は,GST-P遺伝子の発現に関与する転写因子が癌化の機構に深く関わっている可能性を強く示唆している。
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