研究概要 |
Protein kinase Cは多くの遺伝子に由来する分子ファミリーであり、本酵素群の関与する生理現象、病態、は多岐にわたると考えられる。本年度の研究は、初年度に引き続きprotein kinase C分子種のうち、δ,ε,ζ分子種について酵素学的性質および生理機能の検討を行なった。δ,ε分子種については初年度にラット脳組織から各種のカラムクロマトグラフィーによる精製方法を確立したが、本年度はこれらの酵素標品を用いて活性調節機構の解析を行い、その結果、δ,ε分子種はいわゆるconventional protein kinase Cと性質が異なるのみならず、それぞれが特徴的な活性調節を受けることが示された。すなわち、両分子種ともその活性化にジアシルグリセロールならびにリン脂質を必要とすることが示されていたが、ε分子種はこれらの活性化因子の他に脂肪酸により強くその酵素活性が増強されることが示され、これに対してδ分子種はかえって抑制を受けることが明らかになった。また、これらのprotein kinase C分子種の生理機能の解析のため、それぞれの分子種の高発現細胞を構築し検討を行ったところ、δ分子種高発現細胞では増殖抑制が観察され、本分子種が細胞増殖制御において特異的な機能を持つことが示唆された。一方、ζ分子種については、ラット組織からの精製を試みたが、その分解産物と推定される触媒作用をもつフラグメントを除去することが困難であるためζ分子種自身の性質を検討することには成功していない。そこでバキュロウィルス系による産生を試み、現在Sf9細胞抽出液からの精製を試みている。また、δ,ε分子種についても同様に産生を行っており、これらの産生標品を抗原としてδ,ε,ζ分子種に対する強力なポリクローナル抗体を作成し、免疫化学的検討を行うことを計画している。
|