研究概要 |
本年度は,学習や記憶などの高次神経機能に関与するとされる,コリン作動性神経系のpostsynaptic neuronの生化学的な指標の一つであるアセチルコリン受容体の結合活性の老化に伴う変化を検索した。コリン作動性ニューロンには,ニコチン様およびムスカリン様受容体があるが,老年痴呆患者脳ではこれらのレセプターの変化については,同一の結果が得られていない。本実験では,老齢ラットのムスカリン様受容体の結合活性について検討した。また,グルタミン酸作動性神経系も学習や記憶などの高次神経機能に関与するとされ,一昨年にグルタミン酸作動性神経系のpostsynaptic neuronの生化学的な指標の一つであるグルタミン酸レセプターについて検索し,老化に伴って結合部位が大脳皮質および海馬で著しく減少することを報告した。今回は,presynaptic neuronのマーカーとして,脳内の遊離アミノ酸濃度の測定も行った。 Fischer系老齢ラット(29ヶ月)及び対照ラット(2及び7ヶ月)の大脳を,大脳皮質及び海馬の2部位に分け,それぞれの部位を50mM Tris緩衝液(pH7.4)でポリトロンホモゲナイザーを用いて磨細し,100,000g,60分間の超遠心の沈渣をムスカリン様受容体の結合活性測定用の試料とした。ムスカリン様受容体の結合実験には,リガンドとして[^3H]quinuclidinyl benzilateを用いた。その結果,何れの部位においても加齢に伴う大きな結合活性の変化は見られなかった。 同様に脳組織を70%エタノールで磨細し,3,000回転,30分間超遠心の上清を乾燥し,アミノ酸分析用緩衝液で再懸濁し,アミノ酸分析装置(日立)で遊離アミノ酸濃度を測定した。その結果,何れの部位においても加齢に伴う大きなアミノ酸濃度の変化は見られなっかた。 以上のことから,学習や記憶などの高次神経機能に関与するとされる脳内物質の中で,老化に伴って特異的にグルタミン酸レセプターが減少することが明らかになり,このことが老化に伴う記憶の減退に強く関与する可能性が示唆された。
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