研究概要 |
成人呼吸窮迫症候群の病理発生機序を解明するため肺胞基底膜の果たす役割について検討した。材料は剖検52症例、42例はARDS発症から死亡までの期間が2-7(侵出期)で、10例は8-14(増殖期)であった。肺胞の基底膜に対してIaminin,type IV collagen,7S collagen,肺胞上皮や血管内皮細胞に対しても抗体に対しても抗体を用いて免疫組織化学を行った。肺感染症33例(ARDS合併7例)、特発性間質性肺炎(11P)24例など123例の症例について血清7Scollagenの測定をRIAにより行い臨床像と比較検討した。DAD侵出期では硝子膜に接する肺胞上皮基底膜からIamininは消失、7Scollagenは部分的に消失、しかしtype IV collagenは完全に保持されていた。肺胞毛細管基底膜は硝子膜に接する肺胞壁でのみ肺胞毛細管内皮とその基底膜の染色性が完全に消失していた。肺胞虚脱が高度で硝子膜が肺胞嚢を覆う段階の肺胞上皮基底膜ではIamininに加え、7Scollagenも広範囲に消失していた。増殖期における虚脱の強い肺胞壁の肺胞上皮基底膜では7Sやtype IV collagenの消失はより高頻度となり、その消失部を通って肺胞腔内線雑化が起こっていた。52例中の46例(侵出期の90%、増殖期の60%)に肺胞毛細管内に微小血栓を認め、血管造影剤の注入による微小血管構造の解析からは増殖期において毛細血管網の強い改変が起こっていることが分かった。一方、血清7Scollagenは健常成人の測定値平均3.91+0.85ng/mlであり、ARDS合併例では10.93+3.76ng/mlで、非合併26例の4,86+1.85ng/mlに比し有意に高かった。また5/7例は測定後1カ月以内に呼吸不全から多臓器不全の状態となって死亡した。以上から結論として肺胞基底膜の傷害と肺胞微小循環の破綻がDADにみられる不可逆的肺胞構築の改築に大変重要であることが明らかになった。
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