研究概要 |
本研究課題において以下の知見を得た。 1.胸腺腫9例の凍結標本からサイトケラチン(CK)の解析を行い、そのパターンを正常胸腺上皮と比較することにより腫瘍の細分類が可能であることを示した。CK8,19陽性の皮質上皮型、CK13,14,19陽性の髄質上皮型、CK14以外が全て陽性のハッサル小体型、その他の混合型を分けたが、CK7,14,19陽性の被膜下上皮型は認められなかった。 2.胸腺癌23例を組織学的・免疫組織学的に扁平上皮癌、腺扁平上皮癌、リンパ上皮腫様癌、明細胞癌、粘液類表皮癌、類基底細胞癌、肉腫様癌、未分化大細胞癌、小細胞癌、異型カルチノイドに分類し、その組織発生を考察した。全体が内胚葉性で、後2者は神経内分泌上皮、他は咽頭粘膜上皮または髄質管上皮への分化が示唆された。リンパ上皮腫様癌の一部にEBウイルスの検出を試みたが陰性であった。 3.胸腺腫20例を非浸潤例と浸潤・転移例に分け、胸腺癌10例と共に腫瘍細胞のAgNORとPCNAを定量して増殖能を検討した。非浸潤性と浸潤・転移性胸腺腫の間には差がみられず、両胸腺腫と胸腺腫の間には有意の差があった。従って、胸腺腫は非浸潤性でも低悪性度悪性腫瘍であり、浸潤・転移性胸腺腫のみを悪性胸腺腫と呼ぶのは胸腺腫との混乱を生じ不適切であると結論した。 4.非浸潤性胸腺腫13例、浸潤・転移性胸腺腫9例および胸腺癌14例における癌抑制遺伝子p53の変異と異常たんぱくの発現を検索した。異常たんぱくの発現はほぼ全例に認められ、胸腺癌でより顕著であり、胸腺腫では病期の進行とたんぱく発現の度合に相関がみられた。p53遺伝子のシークエンスを行うと、たんぱく高発現腫瘍のみならず低発現腫瘍にも点突然変異が証明された。ただし、変異の部位は一定しなかった。胸腺上皮性腫瘍では早期にp53の異常が起こるものと推定した。
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