研究概要 |
ウサギ腹腔の炎症について、その早期および後期の代表として5時間と24時間を選び、これらの時間に浸出している多核白血球のRNAおよびタンパク合成能を検索し、この両者の多核白血球はいずれもこれらの合成能を保っていることが証明された。これらの早期および後期の多核白血球からpolyA^+RNAを抽出し、cDNAを作製、flファージベクターを利用して、大腸菌を形質転換し、cDNAライブラリーを構築、ヘルパーファージを用いてssDNAを産生させ、対合しないssDNAのみ選択し、dsDNAに変換し、5時間マイナ24時間と、24時間マイナス5時間の2種の差し引きライブラリーを作製した。さらに100クローンづつを選び、個々にdifferential hybridizationを実施し、5時間および24時間の多核白血球にそれぞれ特異的に発現されているクローンを選別した。これらのcDNAからsenseおよびanti-senseRNAを作製し、炎症各期の多核白血球のmRNA分画についてcytoplasmic hybiridizationを実施した。その結果、炎症早期に発現しているクローンとしてはIL-1β,IL-1ra,NAP-1,Act2,MRP8,MRP14,fMLPR,およびγ-actinの8種が同定された。また、炎症後期のみに発現されているものとしてはferrtinL鎖が同定された。これらの他に、炎症の中間期に発現されているものとしてferritinH鎖の遺伝子が確認された。また、炎症に深くかかわっているとされる、TNFα、およびMCP1はこれらのライブラリー中に検出されず、多核白血球以外の細胞によって作られているであろうと推測された。これらの事実は、従来炎症局所に浸出した後は貧食能と代謝爆発をしたのちに、単に死んでいくと考えられていた多核白血球が炎症早期はもとより、炎症後期に至っても活発なタンパク合成を営み、しかも、その内容が早期と後期においては異なっているという、新しい現象を明かにできたと考える。
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