5番、17番、18番、22番染色体に欠失を有する大腸癌細胞へ異なる薬剤耐性マーカーで標識された正常染色体を移入するためにMNNG処理しHPRT遺伝子欠損の大腸癌変異細胞を分離した。この細胞にHPRT遺伝子を選択マーカーとするヒト転座染色体(17pter>17q11:Xq11>Xqter;t(X;17))を移入し得られた細胞は非移入細胞に比べ大型で偏平な細胞に変化していた。17番染色体短腕上のDNAマーカにより正常17番染色体の移入を確認後、移入細胞の増殖特性を調べた。液体培地中での細胞増殖速度は非移入細胞と比べ抑制は認められなかったが、軟寒天培地中でのコロニー形成能の低下は認められた。また、ヌードマウスにおける造腫瘍性は腫瘍形成の遅延は認められたが完全には抑制されなかった。一方、t(X;17)転座染色体移入細胞からt(X;17)転座染色体が脱落した細胞では非移入細胞と同一速度で腫瘍が形成された。これらの結果は、もとの大腸癌細胞で不活性化されていた癌抑制遺伝子が正常ヒト17番染色体短腕の移入により補われたため、癌形質の一部が抑制されたと考えられる。そこで、さらに癌形質の完全な抑制を試みるために17番染色体短腕移入細胞ヘネオマイシン耐性遺伝子で標識された正常5番染色体を移入した。G418選択培養により多核で細胞同士の接着性が認められないコロニーが形成されたが、これらのコロニーは初期の段階で増殖が停止してしまった。 正常5番と17番染色体を大腸癌細胞へ移入した結果、17番染色体の移入では抑制されなかった大腸癌細胞の増殖能が5番染色体の移入により抑制されたことから、癌形質の完全な抑制には少なくとも2種類の癌抑制遺伝子の機能が補われる必要があること、各々の癌抑制遺伝子は異なる機能を持つことが明らかになった。
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