研究概要 |
熱帯・亜熱帯地域にはびこるリーシュマニア症の迅速な診断に役立てるために、polymerase chain reaction(PCR)法を検討した。リーシュマニア原虫に特異的な3組のオリゴヌクレオチド・プライマーを合成した。それぞれのプライマーを使ったPCR反応によって、Leishmania braziliensis complex(WHO標準株のL.braziliensis,L.guayanensis,L.panamensis)原虫DNAのみの特異的増幅、L.mexicana complex(WHO標準株のL.amazonensis,L.pifanoi,L.garnhami)原虫DNAのみの増幅、また、上記原虫DNAおよびL.mexicana complexのL.mexicanaの特異的増幅が認められた。また、原虫10個体分の原虫DNAを含むPCR反応液から、特異的PCR産物が得られることおよび、PCR法で得た非放射性デオキシゲニン標識のDNAプローブを用いたサザーンブロットによって、増幅した原虫DNAの特異性を分子レベルで確認できることがわかった。アイソザイム・パターンで原虫種が同定されたエクアドル国由来の原虫分離株を用いてPCRを行い、両者の高い相関性が認められた。ちなみに、本プライマーによるTrypanosoma cruzi原虫DNAの増幅は認められなかった。以上の3組のプライマーを用いたPCR法を行って、エクアドルの本症患者の病変部位から分離した原虫を、L.braziliensis complexの原虫およびL.mexicanaと同定した。また、サシチョウバエLutzomyia ayacuchensisに特異的と思われるPCR産物(約310塩基)を得て、その塩基配列を決定中であるので、原虫と同様にPCRでの簡便な種同定が可能となり得る。以上の成績から、原虫に特異的な3組のプライマーを用いてPCRを行うことにより、エクアドル国由来のリーシュマニア原虫を2つのcomplexのレベルで、またL.mexicana原虫種の同定が可能となった。今後、多数の検体処理が可能になり、リーシュマニア症流行地での疫学調査への応用が期待される。
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