研究概要 |
ウェルシュ菌のθ毒素非産生変異株が,その特性からa,bの2群に大別された。 即ち,a群菌は対数増殖期になると中性-アルカリ性で極めて不安定な,未知の低分子物質(a物質と仮称する)を産生し,培地中にも分泌(あるいは漏出)される。 b群菌はa物質を産生しないが,洗浄したb群菌にa物質を含む培養濾液を加えるとθ毒素を産生する。 この現象はθ毒素のみならず,κ毒素,λ毒素およびHAの各非産生変異株でも同時に見られ,ウェルシュ菌の病原因子の遺伝子に関して,a物質が中心的な役割を演じる統一的なレギュロン様の産生調節機構が存在する事がはっきりしてきた。 本研究プロジェクトでは(1)最終的にはa物質の機能や構造などを解明するために,まずa物質の基本的な性状や活性の安定化条件を探り,部分精製を試みた。 その結果,a物質が盛んに産生される対数増殖期のa群菌の培養濾液(a-filtrateと略称する)をpH5.0以下にした凍結乾燥し,低温で乾燥状態に保つと比較的長期間,活性を安定に保存できる事が分かり,これを基に種々の条件を試した結果,a-filtrateから市販のシリカレジンカラムを用いてa物質を20倍以上に精製する事が出来た。 また,a物質の活性は中性付近(培地中)で37℃に保つと数分で完全に失活するが,pH5.0で0℃に保温すると最初の数時間はむしろ活性が約2.5倍から3倍も上昇するという特性も明らかになった。 (2)一方,遺伝子レベルからの解析に関しては,θ毒素や他の3種類の毒素の遺伝子の上流領域には,a物質が恐らくある種のDNA結合蛋白を介して間接的に関与するであろう相同なコンセンサスシグナルが各毒素遺伝子上に存在するであろうという仮説を実証するために,クローン化したウェルシユ菌のθ毒素遺伝子を数種類のシャトルベクターにつないでエレクトロポレーションによりθ毒素非産生変異株に導入する試みは現在まで成功していない。
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