研究概要 |
赤痢菌が上皮細胞に侵入するためには、赤痢菌がもつ大きなプラスミドが必要である。D群赤痢菌のもつこの大きなプラスミドを遺伝学的に解析し,約26ーkbにおよぶ領域とその領域とは離れたところに存在するvirF遺伝子が細胞侵入性にとって必要であることを明らかにした。この遺伝子領域は,2つの正の調節因子によってコントロ-ルされていた。つまりvirF遺伝子が26ーkb内のinvE遺伝子の発現を転写レベルで正に調節し、そこでつくられたinvE遺伝子産物が他の細胞侵入性に関与する遺伝子をさらに正に調節するという具合に。 今回は,細胞侵入性が外界の浸透圧により影響をうけ,上記の調節機構の遺伝子発現にその影響を与えていることを明らかにした。赤痢菌を食塩を含まない培地で培養した場合は,全く侵入性を示さないが,食塩濃度を上昇させるに従い,侵入性が増加していった。その増加はサッカロ-ス,PEG等を用いて浸透圧を上げても同様の結果が得られ,又浸透圧保ゴ剤であるグリシンベタインで上昇が解除された。浸透圧は約300m0smという生理的食塩水の濃度で最大に達した。細胞侵入性遺伝子群のどの遺伝子の発現が影響をうけているのかを,抗体を用いたウエスタ-ンブロッティング法,および各遺伝子にβーガラクトシダ-ゼ遺伝子を融合させたものの系を用いてその発現を調べたところ,virF遺伝子の発現においてであることが明らかになった。又,この侵入性は温度によっても影響をうけているが,それはinvE,virF遺伝子ともに影響をうけ,それはHVーS(ヒストン様タンパク質)依存していたが,浸透圧による影響は,virFにおいてであり,HVーSの作用にも依存していなかった。このように細胞侵入性は外界環境因子により影響をうけ,その作用点は因子により異なる。
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