研究概要 |
わが国の農林水産省は1985年に新農薬登録時に必要な毒性試験実施要領を改正し,有機燐農薬について遅発性神経毒性試験を新たに加えた。すなわちニワトリに急性中毒の際の半数致死量以上を1回経口投与し,アトロピンで救命した後,異常歩行など運動神経障害発症の有無を21日間観察することが義務づけられた。本毒性に対する感受性は動物の種によって著しく異なり,実験動物として普及しているマウスやラットでは神経障害が全く発症しない。本毒性を検出するためにニワトリが国際的に賞用されているが,体重1.5〜2kgのかなり大型な動物であり,数十羽を同時に処理する際の飼育スペースや実験に要する労力は容易でない。そこで筆者らはわが国古来の小型の家きん,日本ウズラ(体重100〜150g)に着眼した。投与経路として皮下注射を用い,また1回投与でなく麻痺が出現する限界量を分割して反復投与することによって本毒性が強く現われる(既報)ので,4〜5回反腹投与法を試みた。さらに近年アメリカで経費投与が急性中毒を抑え,しかも遅発性神経障害をより強く発症させるすぐれた投与方法であることが報告されたので,追試を試みた。その結果経皮投与は農林水産省が指定する現行の経口投与よりも容易で確実な方法であることが明らかになり,またウズラは本毒性を検出するための新しい実験動物系としてニワトリに代り得ることがわかった。あたかもウサギに代えてマウスを用いるようなものであり,研究の進展に利すること多大なものがあると考える。
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