研究概要 |
[目的]動脈硬化症をはじめ血管病変の多くは内膜への好中球の付着を引き金とする。局所へ好中球を誘導する因子の中でも、補体成分のフラグメントであるC5a,C3aは最も協力な好中球の遊走因子である。われわれは先にヒトの血管内皮細胞が補体成分C3,C4,C5を産生することを報告した。局所から放出される補体成分は炎症の場で蛋白分解酵素の作用を受けて大量の好中球遊走因子となって局所の病変を増強させることが考えられる。今回の研究では、血管内皮細胞による補体蛋白産生が、如何なる因子によって正又は負の影響を受けるのかを知るために、各種サイトカインの作用を比較検討した。 [材料と方法]ヒト臍帯静脈内皮細胞をディスパーゼ処理によって集め、EGFを含む培地で維持した。継代4〜6代の細胞を用いてTNF-α,β,IFN-γ,IL-1βおよびこれらを組み合わせて作用させた場合の補体第3成分(C3)とFactorB(FB)の産生をELISAによる蛋白の産量と、Nothern blotting法によるmRNAの発現について比較した。 [結果]得られた結果は下記の如くである。 1.TNF-αはC3とFBの産生を約10倍増強させた。 2.TNF-αはC3とFBのmRNAの内皮細胞における発現を増強させた。これは1.の結果とも一致する。 3.1.および2.の増強作用はTNF-αの濃度依存性に増強され、10ng/mlでプラトーに達する。 4.C3およびFB産生の増強までに、TNF-αとの反応時間が、C3で36時間、FBで24時間必要である。 5.一度増強作用が発現すると、TNF-αを培養液から除いても作用は一定時間継続する。 6.TNF-αとIL-1βおよびTNF-αとIFN-γの両者を同時に作用させると、相乗作用が出現し、C3の産生とmRNAの発現が増強した。 7.TNF-αを内皮細胞に作用させると、著名な形態変化を耒し、紡錐状の形態に変わった。 以上より、サイトカインの補体産生に及ぼす増強作用を認めた。
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