研究概要 |
分析に用いた検体は、劇症肝炎(FHF)患者プ-ル血清(全例死亡症例)とFHF患者初回血漿交換により得られた除去血漿である。membrane filtration(Amicon PM10,Centricon10)により分子量1万以下の濾液を得た。正常人プ-ル血清濾液をコントロ-ルとした。 FHF患者血清および血漿濾液は、EGFおよびinsulinで刺激された初代培養肝細胞のDNA合成を各々5%、25%のmedium中の濃度で、hydroxyurea投与のbackgroundと同程度に抑制した。LDHやGOTのmedium中への放出は認められなかった。抑制はreversibleであった。3Hロイシンの細胞内蛋白への取り込み実験から、このDNA合成抑制活性は、蛋白合成阻害によるものではないことが、示唆された。FHF濾液をセントリコン3で分画すると、抑制活性は一部保持された。この膜を素通りするビタミンB12(MW1,355)より、大きな分子量と考える。この抑制物質は、トリフルオル酢酸処理、および70℃30分熱処理に対しいずれも安定であった。 以上からこの抑制物質がペプタイドである可能性を想定し、FHF血漿濾液を逆相系高速液クロ(ODS120ーT)を使って分画した。抑制活性は除去血漿に含まれる可能性のあるヘパリンの溶出位置には認められなかった。抑制活性は逆相カラムに保持されなかったことから、親水性の特性を有すると考えられ、現在順相の高速液体クロマトグラフィ-を用いてこの物質の精製を進めている。FHF濾液の肝細胞とのプレインキュベ-ションの実験から、この抑制物質は肝細胞により代謝されることが示唆された。この抑制活性の出現機序として、劇症肝炎ではhepatic functional cell massが著しく減少する結果、本来肝で代謝されるベきこの抑制物質が体内に蓄積し、血中に出現すると考えられた。今後本抑制因子の精製およびその臨床的意義について更に解析していきたい。
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