研究概要 |
モノアミン酸化酵素(MAO)をヒト剖検脳で検出する方法をみいだし,すでに報告した(Acta Neuropathologica 80,419-424,1990)。この方法を応用してヒト剖検脳の視床下部を検索したところ,ヒト視床下部の尾側2/3にMAOを含有する大型神経細胞の集団をみいだした。そのヒト脳での解剖学的分布をヒト剖検脳をもちいて明らかにした(Neuroscience,1991)。その報告のなかでこのMAO含有神経細胞の局在がヒスタミン神経細胞の分布と酷似していることを指摘した。一方、アルツハイマー病の視床下部についてMAOの組織化学的検索により、この視床下部MAO含有神経細胞に神経原線維変化が多数出現することもすでに報告した(Abstracts of the XIth International Congress of Neuropathology,1990)。そこで、ヒスタミン神経系のアルツハイマー病での形態変化を検索するために、視床下部MAOの解剖学的局在に基づいて、パラフィンブロックより、ヒスタミン神経が主として分布しているTuberomammillary nucleus(TM)を含む切片を切りだし、正常対照例とアルツハイマー病例について検討した。その結果、アルツハイマー病のTMに局在する大型神経細胞の数が正常対照例のそれよりも統計学的に有意に少ないこと、および神経原線維変化が多数出現することを形態定量的に見いだし報告した(Neuroscience Letters,1993)。この結果はアルツハイマー病のヒスタミン神経細胞が変性脱落することを示しており、したがってアルツハイマー病においてヒスタミン神経系の機能異常が存在することを示唆する。昨年、さらに同様の方法を駆使して、パーキンソン病、多系統萎縮症のTMを検討した。その結果、TMの大型神経細胞はパーキンソン病では保たれること、一方、多系統萎縮症では中等度の脱落をしめすことを見いだした(Can.J.Neurol.Sci.20(Suppl.4),S144,1993)。この結果は、ヒスタミン神経系がアルツハイマー病のみならず、多系統萎縮症においても変性することを示唆しており、これらの変性疾患でのヒスタミン神経機能の異常が推測される。ヒスタミン神経系が睡眠覚醒の制御に関与していることから、これらの変性疾患で認められる睡眠覚醒障害との関連が示唆される。
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