研究概要 |
老齢者においては、高頻度に且つ、わずかの負荷に対して心不全をきたす。現在、この原因は不明である。若年者においては、血行力学的負荷に対し、まず、c-fos,c-myc等のProto-oncogeneが1ないし2時間内に発現され、1-2日後より収縮蛋白の合成がおこり、やがて心筋の肥大を生じ負荷に対応する。老齢期においては、血行力学的負荷に対するこれら一連の適応過程の減弱または遅延が心不全を来し易いことの原因かも知れない。本研究では力学的負荷に対する心筋のProto-oncogen発現に対する加齢の影響を検討した。2ケ月齢、18ケ月齢のWistar Ratより心臓を摘出した。牛血清、赤血球を加えたTyrode液を20%O_2,3%CO_2,77%N_2Gasにて酸素化し、大動脈より逆行性に潅流するLangendorff標本を作成した。左室内にBalloonを挿入し、拡張末期圧を0,5,25mmHgに設定した。Gene発現の時間的経過を検討するために、負荷を与えず潅流した後、0,30,60,120分に心臓を-80Cに凍結した。力学的負荷の影響を検討するために、拡張末期圧を上昇させ、負荷開始後60分に心臓を凍結した。Northern Blot解析法により、c-fos,c-myc geneの発現を検討した。c-fos mRNAは負荷開始後、30分でその発現が検出され、60分でpeak値となり、120分では減少した。c-myc mRNAは60分で検出され、120分でさらに上昇した。この時間的経過は両群のRatで同じく観察された。拡張末期圧の上昇により、2ケ月齢Ratではc-fos,c-mycともそのmRNAは上昇した。18ケ月齢Ratでは、拡張末期圧が0,5,15mmHgのときには、両者のmRNAは有意に減少していた。しかし、拡張末期圧が25mmHgのときには、老齢RatでもそれらのGene発現は大きく、若年群との差はなかった。これらの結果より以下の結論を得た。老齢者では力学的負荷に対するProto-oncogeneの発現は減少しているが、その遅延は認めない。また、老齢心では、Proto-oncogene発現に至るための負荷の閾値が上昇している。
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