研究概要 |
細胞膜Na^+,K^+ーATPaseの生理的調節因子としての内因性ジギタリス様物質が高血圧,心不全など循環器疾患との関連で追求されてほぼ10年が経過した。1990年に至り,Hamlynらはヒト血漿由来のジギタリス様物質はウアバインあるいは極めて類似した物質であることを発表した。我々も1988年に哺乳類血漿およびヒト尿から逆相C_<18>高速液体クロマトグラフィ-で約18%アセトニトリルで溶出される高極性のジギタリス様物質の存在を世界に先駆けて報告し,ヒト尿からの物質の単離に成功した。我々の単離物質とHamlynらのウアバインとを比較するために,ウサギにて抗ウアバイン抗体を作成しIgG分画を得,免疫沈降法にて検討したところ,我々の物質の ^3Hウアバイン結合阻止活性が消失すること,RIA法に基づく用量反応曲線がウアバイン様品のされと平行し,明らかなウアバイン免疫様活性を示すことから,やはり精製物質は,糖鎖については不明であるがウアバイン類似の強心配糖体であることが確認された。このウアバイン様物質は腎尿細管,血管平活筋,下垂体,副腎,内皮細胞などからわずかながらも分泌されていることが判明し,血漿由来の前駆物質から合成されている可能性が高いこと,細胞膜を介するNa,Kの動きにより合成速度・量が影響される可能性があることなどを明らかにしているが,より詳細に検討が必要である。ウアバイン様物質産生部位については,まだ一定の見解が得られていないが,我々の成績では副腎稿除によっても血漿レベルの有意の低下を認めず,上記のように各種の細胞で産生され,パラクリン・オ-トクリンとして作用している可能性が大きいと考えている。特に血管系(大動脈,腸間膜血管床など)から,かなり大量のウアバイン様物質が遊離されていることを確認しており,高血圧などでの血管ト-マス調節との関連で今後追求してゆく予でである。
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