研究概要 |
本研究では,心筋虚血・再灌流障害におけるアデノシンの作用について検討した。83頭の麻酔開胸犬にて冠動脈左前下行枝を頸動脈からの体外バイパスチューブにより選択的に灌流した。心血行動態の安定後,α_1,α_2,βアドレナリン受容体遮断下にバイパスチューブを狭窄することにより20分間低冠灌流状態を作成した。その間灌流域の冠状静脈より採血し,ラジオイムノアッセイにより血液中アデノシン濃度を測定,同時に灌流域の心筋短縮率(FS),乳酸摂取率(LER)を計測した。対照群では20分間の低灌流中アデノシン産生量が1.7±0.8(SEM)より8.8±1.3nmol/100g/minに増加したが,ブラゾシンの冠動脈内投与によりα_1アドレナリン受容体を遮断するとアデノシン産生量は対照群に比し有意に低値であった。(1.8±0.7nmol/100g/min,低灌流20分後)。α,β受容体遮断下では,アデノシン産生量は対照群と有意な差はなかった。このことより虚血心筋におけるアデノシン産生はα_1アドレナリン受容体活性が制御していることが示された。ついで,虚血・再灌流による心筋収縮不全に及ぼすα_1受容体-アデノシン連関の意義を検討した。α_1受容体刺激であるメトキサミンを各々投与,15分間虚血・3時間再灌流後の局所心筋短縮率は改善し,この時アデノシン産生増大が認められた。また,アデノシン投与にても虚血・再灌流による心筋収縮不全が軽減された。 以上の結果より虚血・再灌流障害においては,α_1受容体-アデノシン連関が冠血流・心機能改善に重要な役割を果たすことが示された。
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