研究概要 |
我々は本研究において圧負荷右室肥大モデルを用い圧負荷に対する適応から破綻(心不全)に至る過程での単離心筋細胞のCaトランジエント,およびエネルギー代謝を解析すると共に,これらと密接に関連している超微細膜構造をO-D-O法で作製し,走査電顕にて観察した. 筋小胞体(SR)については圧負荷のごく初期には網目状管腔網の密度が著明に増大し,また扁平な嚢状構造も認められた.右室肥大の進展に伴い網目状構造の密度,扁平構造は減少し,心不全期にはコントロールに比して網目状構造の密度は著明に低下した. Surface caveolae(SC)も心筋細胞内Ca代謝と関係した膜構造と考えられている.これも圧負荷の初期には数が増加したが,これの経時的変化はSRの経時的変化よりやや遅れて出現した.その後の経時的変化はSRのそれと同様で,肥大の進展,心不全の出現と共に減少した. エネルギー代謝,Ca代謝と密接に関係しているミトコンドリア(MT)の形態的変化も著明に認められた.心肥大の初期にはMTの数は増加し,クラスターを形成していた.MTの大きさは種々であった.肥大の進展に伴い,MTの数は減少し,心不全期にはMTのクリスタの膨化や障害像も認められた. これら超微細膜構造の変化は単離心筋細胞Caトランジエントの変化と良く相関し,これら超微細膜構造を経時的に観察すれば,心筋の収縮-弛緩と密接に関係しているCaトランジエントの変化を推測する手段となり得ると考えられた. アデノシン燐酸化合物については心臓全体で検討した.初期心肥大期にはATP濃度はコントロールに比して増加傾向を示し,AMP濃度は有意に減少し,energy charge potentialは有意に上昇したが,心肥大期,心不全期にはこれらのパラメターはいずれもコントロールと有意な変化を認めなかった.
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