研究概要 |
本研究においては、動物実験により各種の負荷によるアシドーシスに対し新生仔脳の神経細胞がいかに反応するかを検討し、以下の結果を得た。 1.低酸素症による新生仔脳出血マウスにおいてその血液pH(pHb)と脳細胞内組織pH(pHi)をリン核磁気共鳴法(MRS)を用いて比較したところ負荷1時間pHiは7.20±0.03から7.36±0.03まで有意に上昇し、その後徐々に低下したが、負荷終了時においても負荷前値より高かった。蘇生後も一旦上昇傾向を示した。pHbは負荷前値7.39±0.01から負荷開始後徐々に低下し、負荷終了時には7.16±0.01であった。以上の結果から、体アシドーシスが存在しているときに、新生仔脳ではアルカローシスを来たす場合があることが初めて実験的に示され、新生仔脳には体アシドーシスに対する何らかの保護機構が存在する可能性が示唆された。 2.生後14日目の新生仔犬を用いて、麻酔下での高炭酸ガス負荷が脳の電気活動とミトコンドリア呼吸に及ぼす影響を脳波とMRSによって検討した。人工呼吸器による吸入ガスの酸素濃度を正常に保ち、炭酸ガス濃度を13%、20%、30%と上昇させたところ、血液ガスの炭酸ガス分圧はおよそ70、100、140mmHgと上昇した。またpHiはそれに伴って7.11から6.99,6.87,6.76まで低下した。脳のfree ADP21.5mMから18.1,14.8,12.9mMまで減少し、脳の電気活動も20%、30%、40%と低下した.したがって、高炭酸ガス血症によるアシドーシスは新生仔脳の活動を抑制してエネルギー消費を減少させ、脳にとって好ましい方向へ作用していることが示唆された。またこの時、ADPがミトコンドリア呼吸を調節していること、およびアシドーシスがミトコンドリアにおける呼吸の基質の調節を障害しないことが判明した。
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