研究概要 |
アルツハイマー病は神経原性の変化を伴う重篤な痴呆で,現在のところその原因や病状の進行等ほとんど判明していない。従来は欧米で多く認められてきたが,近年我国でも本疾患の罹病者が多く報告されており,また高齢化社会を迎えようとしている現在,難治性の疾患の中でも最も解明がいそがれている病気の一つである。 本疾患のアプローチの方法として,原因究明と治療方法の開発に大別されるが,コリン作動性ニューロンの脱落が報告され,実験動物のレベルで胎仔の神経細胞の移植が報告されている。 また,ある種の神経栄養因子(NTF)が,神経系の回復に関与していることが明らかになっている。 本研究では,コリン作動性ニューロンが主に存在し,かつ,記憶との関連が最も深いといわれている海馬を中心に研究を行った。まず,NTFとしてはインシュリン様神経成長因子(IGF-1)と塩基性線維芽細胞増殖因子(b-FGF)がともに海馬の傷害とその修復において重要な役割を果たすことを明らかにした。 次に,胎仔神経細胞の移植は適切な部位に(CA2〜CA1),適切な胎令の神経細胞を(前脳基底部または海馬,14日)移植することによって大きな改善が見られることが明かとなった。本実験は主に脳弓・海馬采を切断した痴呆モデルを用いて行い,水迷路の学習実験で有効な改善を証明した。また,てんかんのモデルであるキンドリングを用いて同様な研究を行い,胎仔神経細胞移植を行い,有効性を明らかにしたことより,移植は神経細胞の可塑性とも密接に関連することが明となった。 以上を総合すると,神経変性疾患に適切な胎仔神経細胞または神経栄養因子を移植または投与することで,病態の改善することが明かとなった。本モデル実験を将来的には臨床応用できるようにさらに検討を加えていく予定である。
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