研究概要 |
雑種成犬を用いて92%以上の膵切除を行い,膵切除のみのコントロール群(コ群)と膵切除直後よりレギュラーインスリンを空腹時血糖が70-130mg/dlに維持されるよう投与したインスリン投与群(イ群)の2群に分けて,亜鉛代謝,がん原遺伝子発現,早期細胞増殖,膵組織中亜鉛と早期細胞増殖との関係,膵再生率および生存率について検討した. 【成績】血清亜鉛はコ群では術後21日目で著明に低下し低亜鉛状態になったが,イ群では血清亜鉛に低下はなく良好に維持された.膵組織中亜鉛もコ群では著明に低下したが,イ群では著明に増加した.がん原遺伝子c-fosおよびc-mycは術後1日目に発現増大したがイ群とコ群との間に差はみられなかった.また術後早期の細胞増殖では,イ群はコ群に比し有意に増加し,術後7週における膵再生率も率意に高値を示した.術後3日目における膵組織中亜鉛とポリアミン合成の律速酵素であるODC活性の関係を検討すると,コ群では両者に相関はみられなかったが,イ群では有意の正の相関を示した.また術後5日目の膵組織中亜鉛とDNA合成の関係を検討すると,両群でそれぞれ有意の正の相関を示した.生存率はコ群では全例が術直後より糖尿病を発症し,糖尿病を持続したまま7週以内に死亡したのに対し,イ群では12周まで犠牲剖検を除く全例が生存し,うち57%が糖尿病より回復した. 【結語】インスリンは術後早期の細胞増殖を増大させたが,その前段階であるがん原遺伝子の発現増大には関与せず,がん原遺伝子は膵切除そのものによりその発現は誘導されることが明らかとなった.ODC活性およびDNA合成はインスリンにより著明に促進されるが,これにはインスリンの直接作用の他,インスリンが膵組織への亜鉛の取り込みを促進させ,この亜鉛を介した作用があるものと考えられた.
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