研究概要 |
肝細胞癌の病因として肝炎ウィルスが最も重要な役割を演じていることはよく知られいてるが、一方で、本来ウィルスと関係ないはずのアルコール性肝硬変も肝癌の発生率が高いことが指摘されており、その発癌機構については全く不明のままである。出願者は肝硬変そのものが化学発癌をも惹起しやすいと考え、肝硬変及びアルコール性肝障害で修飾される薬物代謝系因子の発癌イニシェーションに及ぼす慶響を検討した。 azathioprineの発癌性には不明な点が多かったが、出願者らはそれまでの研究で、肝細胞内還元型グルタチオン(GSH)の減少時にはそのDNA損傷性が増大することを明らかにした。肝硬変時にはこのGSHは減少することが知られており、aflatoxin B_1(AFB_1)を用いてこのGSHのイニシェーション修飾作用, さらにethanolの影響を検討した。ethanol投与時の代謝系の変化として、チトクロームP-450(P450)及びそのアイソザイム、活性化AFB_1の解毒系と考えられるglutathione S-transferaseやepoxide hydraseを測定した。発癌イニシエーション(DNA傷害)の検出にはアルカリ溶出法、in situ nick translation法(備品として購入した生物顕微鏡を使用)、DNA adduct測定法を用いた。buthioninsulphoximineにより細胞内GSHを減少させると、AFB_1のDNA傷害性は著明に増大し、ethanolの投与によりこの傷害はさらに増幅された。ethanol投与により総P450.glutathione S-transferase,epoxide hydraseは変化せず、アイソザイムの測定(Western Blotting)によりP450IIIAが増加していることが判明した。従って、肝硬変時には肝細胞内GSHの減少によりAFB_1により発癌イニシエーションは増大し、ethanolの投与によりP450IIIAが誘導されることにより、さらに発癌の危険性は高まることが推測される。
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