研究概要 |
虚血による脳神経細胞障害の発生過程において興奮性アミノ酸の細胞外への放出や細胞内Ca^<2+>濃度の上昇が重要な役割を担っていると考えられている。本研究は虚血性脳障害治療を目的として,興奮性アミノ酸受容体遮断薬,あるいはCa^<2+>遮断薬を投与し,その効果がよく知られているバルビタールと対比させ検討した。 【対象及び方法】砂ネズミ53頭を非虚血負荷群,対照群,薬剤投与群に分けた。対照群は両側の総頚動脈を遮断することによって3分間の前脳虚血を負荷した。薬剤投与群では腹腔内にペントバルビタール30mg/kg,ケタミン10mg/kg,塩酸ベニジピン10,30,40μg/kg,MK801 4mg/kgのいずれかを投与し,15分後に3分間の前脳虚血を負荷した。ペントバルビタール投与群では5分間の虚血負荷も行なった。またNBQX60mg/kgを3分間の前脳虚血直後に投与した。虚血中の脳温はその後の神経障害の程度に大きく影響するため,本実験では虚血中の脳温および直腸温をモニターして厳重に37℃に維持した。1週間後に脳を摘出して組織検査を行ない,海馬CA1細胞の障害の程度を比較した。【結果】対照群の海馬CA1野では従来の5分間脳虚血と同程度の強い神経細胞死が観察された。薬剤投与群の中で対照群と比較して有意水準1%で有意差が認められたのは,バルビタール投与後の3分間虚血群と虚血後投与のNBQX群であった。【考察】バルビタールの虚血前投与による脳細胞障害に対する有効性はよく知られている事実であり,今回の実験でもその効果が確認された。AMPA型受容体のアンタゴニストであるNBQXの脳神経細胞障害に対する保護効果が認められたが,電位依存性Ca^<2+>チャネルを遮断するベニジピン,あるいはNMDA型受容体作動性チャネルを遮断するMK801およびケタミンは保護効果が認められなかった。 このことから虚血性神経細胞障害におけるAMPA型受容体の重要性が示唆された。
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