研究概要 |
まずECLAの技術的修得を計るため山羊に安全に部分体外循環を実施することを試みた.体重20kg前後の山羊8頭を用いた.膜面積2m^2のクラレ社製外部灌流方式の中空糸緻密膜型人工肺(ELー4000)を組み込んECLA回路の空気を炭酸ガスで置換した後,乳酸リンゲル液を充填した.挿管全身麻酔下に山羊の右頚静脈より18ー20Frのクラレ社製シンウオ-ルカテ-テルを先端が右房に到達するよう挿入し,これを脱血カテ-テルとした.また,右頚動脈からは14ー16Frの同カテ-テルを挿入し送血カテ-テルとした.これらのカテ-テルを充填済みECLA回路と連結し,ECMOを開始した.山羊の心臓を止めることなく,バイパス流量約lL/分の部分体外循環とした.人工肺にはFiO2が50%以下の酸素/窒素の混合ガスを1ー2L/分吹送した.体外循環開始後,山羊を覚醒させ,気管内チュ-ブを抜去し,我々が考案した飼育檻に入れ,山羊が自分で餌を摂取できる状態にして管理した.感染予防の目的で,毎日抗生剤をECLA回路内に投与した.このような方法でECLAを1週間実施し得た. 次に,特殊肺動脈カテ-テルの試作に取り掛かった.しかし,この方法で左心を補助することより,むしろ循環器系に不可逆性の変化が起こる前にできるかぎり早期に体外循環を開始するほうがより多く循環不全患者を救命できるのではないかという結論に到った.その一つとして早期ECLAを開始するため,充填済み体外循環回路を保存し,緊急の際のこの回路をそのまま使用する方法がある.そこで,長期充填保存回路の機能の保全,及び無菌性を検討した.長期充填保存するためには充填晶質液が保存中に人工膜を通して漏出しないことが重要である.この条件に合うシリコン膜のSciMed肺またはクラレ肺を組み込んだECLA回路の5基を乳酸リンゲル液で充填し,人工肺の気相を大気中に開放した.6ヵ月ー1年後,人工肺のガス交換能が充分保存されていることがわかった.また.別のクラレ肺を組み込んだECLA回路7基を抗生剤を含んだ充填液で充填し,無菌的に3ー6カ月間保存した.これらの充填液を定期的に採取し,細菌学的検索をおこなった.合計38回採取し,好気性菌,嫌気性菌,好酸菌,真菌の培養を行なったが,いずれからも菌は検出できなかった.
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