研究概要 |
本研究は,ヒト卵巣癌細胞の腹膜中皮細胞への浸潤機構を解明するためのin vitro実験モデルの開発ならびにモデルを用いた浸潤抑制物質のスクリーニングを行うことを目的とする。中皮細胞として手術時に採取したヒト腹膜中皮細胞およびラット腸間膜由来中皮細胞を用い卵巣癌細胞として多種の株化細胞を用いた。中皮細胞上に卵巣癌細胞を重層すると,癌細胞は中皮細胞層上に接着し,細胞間結合間隙から中皮細胞層下に侵入した。侵入した癌細胞は時間の経過と共に増殖しコロニーを形成した。浸潤した癌細胞数は,重層した癌細胞数の増加と共に,また重層後の時間の経過と共に増加し約24時間後にほぼ一定値に達した。卵巣癌細胞浸潤能の定量町測定には,1×10^5/dishのRMUG-S細胞(ヒト卵巣ムチン性癌)を中皮細胞層上に重層し24時間後に判定することが最適と考えられた。次に本実験系を用いて浸潤抑制,促進因子の検討を行った。浸潤モデル培養系では浸潤がおこるために血清の添加を必要とする細胞と全く必要としない細胞とがあることが判明した。血清要求性がん細胞では血清中の因子(分子量9万)がリガンドとなってがん細胞のホスホリパーゼDの活性化によるリゾホスファチジン酸の生成が浸潤誘発の初期反応になると思われた。RMUG-Sは血清非要求性でこの初期誘発反応がすでに完了しているものと思われた。いずれに細胞株もボトリヌス菌毒素C_3によって浸潤が強く抑制されrho(低分子G蛋白)による接着機構の活性化が浸潤能を支配していると予測された。浸潤抑制物質としてはazatyrosineを選び検討を加えた。RMUG-Sはこの存在下で培養すると増殖抑制,形態変化を伴って浸潤能がほぼ完全に消失した。細胞表面の接着因子について検討した結果CD46の著明な減少を認めたことより,RMUG-Sの浸潤能の消失は中皮細胞への接着能の減少が原因であると考えられた。
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