研究概要 |
切断されたら再生しない視神経線維も、末梢神経を自家移植することによって再生する。末梢神経の自家移植による,視神経の再生実験を,成ネコを用いて行なった。蛍光色素の逆行性標識法によって得られた,再生視神経細胞の数はおよそ5千個で,約4%の細胞が軸索を再生していることがわかった。外側膝状体へ投射している細胞も軸索を再生することが,蛍光色素の二重標識で明らかになった。視神経細胞のどのタイプが軸索を再生しやすいかを,ある領域に見られた全ての再生視神経細胞に蛍光色素を入れて調べた。その結果α細胞(生理学的なY細胞)の割合が5倍以上になっており,α細胞の軸索再生率が大変高いことがわかった。 再生した視神経線維が髄鞘を被っているかどうかを、Biocytinの順行性標識と電顕観察によって調べた。正常なネコの視神経では存在しない無髄線維が多数標識されていた。標識された神経線維の数(323から67)と有髄線維の割合(2.8%から76.1%)は,3例の間ではばらつきが大きかった。これらの標識された線維の直径の分布は,有髄線維は0.8μmと1.2μmにピークのある二峰分布を示し平均直径は0.89μmで,無髄線維は0.4μmにピークのある一峰分布で平均直径は0.55μmであった。再生線維での軸索直径に対する髄鞘直径に比を求めたところ、平均0.72で正常な視神経の価(0.8)に近かった。 移植片から細い神経束を剥離し、この神経束を銀線に載せて、再生視神経細胞の光刺激に対する応答を調べた。合計103個のユニットが記録でき、その内訳はYが28個,X51個,W10個およびいずれとも判定できないものが13個であった。YおよびX型細胞の占める割合はそれぞれ28.1%,50.0%で、ここでもY(α)の占める割合が正常網膜よりも高くなっていることがわかった。一部に異常なユニットが見いだされ、このことは軸索の切断と再生の過程で双極細胞あるいはアマクリン細胞からのシナプスの、少なくとも一部が変性して消滅したことを示すものと考えられる。
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