研究概要 |
本研究は,三叉神経節内におけるエンケファリン含有神経による知覚(特に痛覚)伝達の調節機構の存在を明らかにすることを目的として,三叉神経節におけるオピエート受容体の存在とその性質を詳細に調べるとともに電位依存性カルシウムチェネルの存在の有無とその生化学的性質,さらにカルシウケチャネルに対するオピエートの影響についてin vitro,in vivoの系で検討し,顔面,口腔領域における三叉神経節内のエンケファリンの生理的意義について追求を行った。その結果,(1)モルモット三叉神経節には,μタイプおよびδタイプのオピエート受容体が存在し,その親和性は脳のそれと比較して同程度であり,またδ受容体の方がμ受容体より約4倍多く存在することが明らかとなり,三叉神経節内のオピエート受容体が生理的に十分機能しうることがわかった。(2)モルモット三叉神経節には,L型およびN型の電位依存性カルシウムチャネルが存在しており,神経細胞に特異的に発現しているN型チャネルがL型チャネルと比べて約2倍多いことがわかった。(3)モルモットにモルヒネを投与(10m/kg)し,1時間後の三叉神経節のカルシウムチャネルを測定したが,対照群と比較して差はみられなかった。しかし,モルヒネの慢性投与(5-100mg/kg,7days)によりN型カルシウムチャネルは有意に増加していた。(4)モルモットを灌流固定後,三叉神経節の凍結切片(40um)を作成し,leucine-enkephalin抗体をもちいて免疫染色を行い,共焦点レーザースキャン顕微鏡で観察しコンピューター処理して得られた立体像から,エンケファリン陽性神経線維によりその細胞体の周囲を取り囲まれている一次知覚神経の存在が明らかとなった。 以上の結果から三叉神経節内においてエンケファリン踏有神経が一次知覚神経の機能を調節し,顔面,口腔領域における知覚の伝達を修飾していることが示唆され,その一つの機序として電位依存性カルシウムチャネルとの関連が考えられた。
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