研究概要 |
本研究は象牙質に特異的に内在される非コラーゲン分解酵素を分離抽出し,象牙質由来の種々なるタンパク抽出分画に対する分解能を検索し,象牙芽細胞の培養と石灰化を試み,さらには修復学で今日臨床で頻繁に用いられている象牙質接着剤の経時的接着力低下の一因を検索することである.その結果次のような研究成果が得られた. 1.ヒト乳歯象牙質粉末からPBSにて抽出された基質分解能を有する主たる酵素の分子量は59KD(59K-Pase)であることが確認された.59K-Paseの至適pHはpH9であり,また,オステオポンチンを分解し加熱,TIMPおよびEDTAで阻害されることが判明し,象牙質中に存在するメタロプロテアーゼの一種であることが示唆された. 2.ウシ象牙質からもヒトと同様に59K-Paseが得られ,その特性はAPMSFでは阻害されず,加熱,TIMPおよびEDTAで阻害されることが確認された. 3.象牙質基質タンパクに対する分解作用を検討するため,プロテオグリカンを分離し,59K-Paseを作用させた結果,それぞれのプロテオグリカン分画を低分子化することが示された.従って59K-Paseは象牙質の石灰化および象牙細管の成熟に関与する可能性が強く示唆された. 4.59K-PaseはPGとそのコアープロテインすべてを分解した.象牙質には数種類の分子量が異なる無機質結合型PGが存在し,また59K-Paseがストロメライシン様活性を有することが確認され,59K-Paseは象牙質の石灰化とその成熟過程に重要な役割を担っている可能性が示唆された. 5.ウシの前象牙芽細胞をマトリジェルを用いて9週まで培養を行った結果,1〜2週で1本の突起を有する細胞が多数確認され,8〜9週で石灰化されたノジュール形成が確認された.基質のALP活性は初期に高いが20日以降では低下したが,ミネラルおよびオステオカルシンは増加した.マトリジェルは経時的に分解され,種々なプロテアーゼが生成されていることが示唆された. 6.第三世代象牙質接着剤の中で最新と思われるKB-110を用い,水中浸漬時間の延長と其に伴う剪断接着強さ,並びに剪断接着疲労試験を行った結果,KB-110は第二世代の接着剤に比較して有意に接着強さが高く,耐疲労性も有ることが示されたが,水中における経時的低下はかなり早く,象牙質有機質の変性が関与していることが示唆された.
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