研究概要 |
空口時の両側性平衡咬合と食塊介在時の片側性平衡咬合に関与する因子を変化させたときの上顎全部床義歯の動揺と臼歯部人工歯の咬合接触を平衡側に注目して観察した. 空口時の両側性平衡咬合に咬合様式の違いが及ぼす影響を検討したところ,咬合面形態の違いが前方推進現象に影響を与え,咬合小面同志で上下人工歯が接触する全面均衡咬合よりも,上顎舌側機能咬頭が下顎中心窩に点状接触する舌側化咬合を両側性平衡咬合が得られるように改変したものの安定性がより高いことが明らかになった. 食塊介在時の片側性平衡咬合に作業側の因子である人工歯の排列位置が及ぼす影響を検討したところ,人工歯排位置の頬舌的な僅かな違いよりも,咬合面形態の違いによって咀嚼時に必要とされる咬合力の大小のほうがより影響の大きいことが明らかになった.同じく平衡側の因子である平衡側義歯床翼の辺縁封鎖を障害したところ,平衡側義歯床の持続的な浮き上がりや断続的な脱離現象が発生し,正常な咀嚼運動の継続が困難であった.咀嚼時の片側性平衡咬合の成立にとって,平衡側義歯床の辺縁封鎖が極めて重要な因子であることが明らかになった. 咀嚼時の義歯の動揺と人工歯の咬合接触を同時に観察したところ,咀嚼初期には平衡側の咬合接触が作業側の接触に先行してみられ,さらに平衡側の接触回数は作業側の回数よりも多かった.これは,作業側には食塊が介在して咬合接触が障害されるが,平衡側は上顎義歯の脱離あるいは下顎義歯の浮上によって咬合接触が容易に発生するためである. 一方,咀嚼後期には平衡側と作業側の咬合接触状態に差がみられなくなり,規則的な接触を示した.これは,食塊が粉砕されて小さくなり,タッピング運動と近似した状態になるために,義歯床両側の変位量の差が減少すると共に,食塊による咬合接触の障害がなくなるためである.
|