エナメル上皮腫の組織学的多様性は歯原性上皮の有する潜在的な歯牙形成能に基づくもので、口腔粘膜からエナメル器に至る様々な分化・発育段階に類似した組織像を呈する。本研究では各型のエナメル上皮腫が細胞レベルで歯原性上皮の分化のどの段階に対応するかを調べ、その由来を検討することを目的に、エナメル上皮腫の電顕的観察を行なった。 当科での手術によって得られた組織をただちに2.5%グルタ-ルアルデヒドで固定し、通法にしたがって電顕試料とした。症例は合計16例で、瀘胞型3例、叢状型9例、基底細胞型1例、棘細胞型2例、顆粒細胞型1例であった。 瀘胞型エナメル上皮腫は、円柱状細胞と星状細胞で構成されていた。円柱状細胞は隣接細胞に密接し、基底側から離れた核や豊富なrーERから、エナメル芽細胞に類似していた。胞巣中心部に近付くにつれて細胞間隙が拡大し、中間径線維が増加して星状細胞になった。棘細胞型は瀘胞型とほぼ同様の構造を持つが、中心部は細胞が膨化し、多量のtonofilamentを有する。叢状型では細胞の形態は一様で、microvili様の多数の細胞質突起を有する不整型な細胞が広い細胞間隙で接していた。細胞質は暗調で、小器官は少なく、tonofilamentも明瞭でない。顆粒細胞型は叢状型の亜型とみられ、顆粒細胞が胞巣のさまざまな部部に、孤立性あるいは集瑰をなして存在していた。基底細胞型は叢状型と同様、周辺部と中心部の区別のつかない未分化な細胞によって構成される。細胞質は極めて暗洞で、多数の遊離ribosomeとミトコンドリアの他に小器官は見られない。 叢状型エナメル上皮腫、歯堤に類似した比較的未分化な上皮よりなりエナメル上皮腫の中では歯の発育段階の最も早い時期に発生したと考えられた。瀘胞を形成するものの内、基底細胞型が未成熟な形態を示しており、瀘胞型、棘細胞型の順に分化度は高くなる。
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