研究概要 |
大量のタンニンが植物組織内に存在しながら,その植物がよく成育する現象は,高濃度のタンニンが析出や沈殿を生じないで細胞内に存在できる形態があることを示している.この形態の解明が自然界でのタンニンの役割や,医療,保健に広く関わるタンニンの機能の解明に貢献することにもなる.代表的な薬用植物のゲンノショウコは,乾燥葉にして約十数%もの結晶性タンニンのゲラニインを含有しており,それは熱湯抽出により容易に溶け出してくるが,その濃縮エキスから結晶を析出させることは著しく困難である.一旦結晶したゲラニインが難溶であるにもかかわらず,エキス中に高濃度で存在出来る理由の一つには,共存物質との複合体形成による易溶化が考えられる.これがゲンノショウコのもつ著しい薬効と深い関係があると考えられる.ゲラニインが高濃度でエキス中に溶解し,フェノール性成分としてはほとんどゲラニインのみと思われるフラクションを得て「水溶性ゲラニイン」と仮称し,まずこの構造と機能について調べた.1)結晶ゲラニインの可溶化条件の検討は,エキス中に存在が明らかな成分,アミノ酸,さらに包摂化合物を形成する可能性のある多糖類,金属イオン等の各々についてゲラニインとの複合体形成を種々の条件のもとで試みたが,可溶化につながる顕著な結果を得るには至らなかった.さらにこの複合体は微妙な条件により,ゲラニインの結晶を析出したり,また分解や変化を生じて,「水溶性ゲラニイン」の複合体を単離した上で,構造解明することは困難であった.2)ゲラニインの機能については,結晶性ゲラニインと「水溶性ゲラニイン」の下痢止効果で調べたところ,難溶の結晶性ゲラニインに比べ可溶性の「水溶性ゲラニイン」に顕著な効果が現われた.このことからゲラニインが生理活性を発現するには可溶化されている必要を示している.この解明はタンニン一般にも共通した今後の重要課題である.
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