研究概要 |
神経末端に存在するシナプス小胞は直径が50nm程度の微小なオルガネらである,神経伝達物質の蓄積場所であり化学伝達において重要な役割を果たしていると考えられている。我々はこのシナプス小胞上に液胞型のH^+輸送性ATPase(以下V-ATPaseと略)が存在し,伝達物質はV-APaseの形成するH^+の電気化学的ポテンシャル差とエネルギー的に共役していること,すなわちこの輸送は濃度勾配に逆らった輸送(能動輸送)であることを見いだした。しかしながら,この伝達物質の輸送系に関する生化学的な研究はまだ始まったばかりであり,輸送系の実体の解明,特異的阻害剤の開発等多くのことがなされなければならない。そこで,本研究においては,以下の点を明らかにすべく研究計画を立案した。(1)伝達物質輸送系のエネルギー共役機構を明らかにする。(2)伝達物質輸送系の精製を通じて,輸送系の実体を明らかにする。(3)グルタミン酸輸送系の特異的阻害剤を検索する。(4)各種神経毒,神経遮断薬とこれらの蛋白との相互作用を明らかにする。 研究を終えるにあたり,いずれの計画ともほぼ予定通りの成果を上げつつあることを報告する。すなわち,(1)に関しては,グルタミン酸輸送系は膜電位により駆動されるが,他の輸送系はpH勾配で駆動されることを示した。(2)に関してはF-ATPaseを用いた輸送系の再構成系を確立し,輸送活性の安定な測定法を開発した。輸送タンパクの精製にはまだ成功していないが,これも時間の問題である。(3)Dibezyl-glutamateを強力な阻害剤として同定した。(4)人工的なパーキンソン氏病を引き起こすMPP^+や多くの遮断薬とシナプス小胞が相互作用をすることを見いだした。以上の結果から,今後,伝達物質の輸送系をより物質レベルで解明する基礎が得られたと考えている。本研究の一部は既に学術論文として報告した。また,一部は現在論文を作製中である。
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