メチル水銀(MeHg)のin vivoにおける毒性発現は著しく神経組織特異的であるが、その生化学的、分子生物学的機構は未だ明らかにされていない。本研究は、(1)神経生長因子に反応して分化し、神経細胞機能を示すPC12細胞から、MeHgに対し異なる感受性を示す細胞株を樹立する。(2)樹立した細胞株の感受性変化の要因を明らかにすることにより、MeHgの毒性発現において重要な因子を特定する、ために行った。 平成3年及び4年度の2ヶ年間に得られた新知見は以下のとうりである。1.MeHg耐性PC12/TM系列細胞株の樹立:PC12細胞を繰りかえしMeHgで処理後、クローニングにより、MeHgに対し段階的に耐性度が異なる7種の株を樹立した。これらの株のMeHgに対する耐性は、MeHgを含まない培地で継代維持できる安定な株である。 2.MeHg耐性細胞株の耐性機構解明:親株洋び7種のMeHg耐性PC12細胞株で、MeHgの蓄積量が低いクローンほどMeHgに耐性であった。さらにMeHg低蓄積性の細胞株をDBSPで処理することにより蓄積量を増加させた場合、MeHgに対する感受性が増大した。以上の結果から、MeHg蓄積性はMeHg耐性における重要な要因であることが確認された。細胞内グルタチオン(GSH)量とMeHg耐性との間にも有意な相関が認められGSH量が高い細胞株ほどMeHgに対し耐性であった。さらに、動物種や由来臓器の異なる細胞株間においても、GSH含量と感受性の間に同様の関係が確認されたことから、GSHは、種および臓器を問わず、MeHgに対する感受性を決定する極めて有力な生体内因子の一つであることが明らかになった。 以上の結果、樹立したMeHg耐性細胞樹のMeHg耐性機構に関し、その主要な耐性要因は蓄積量とGSH含量の変化であることが明らかになった。しかし、蓄積量に変化を与えているMeHg輸送の実態の解明は今後の問題として残された。
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