研究概要 |
ポリペプチド等の高分子物質の腸管吸収性を改善するために,促進剤による細胞間隙経路の透過性増大作用とその機構,さらに吸収部位としてのパイエル板の有用性を検討した.In Vitroチャンバー法により求めたラット空腸,結腸の細胞間隙経路の特徴から,FITC-デキストラン(分子量4000,FD4K)程度の高分子物質は自由拡散可能であることが見出された.吸収促進剤カプリン酸(C10)は,インピーダンス解析から細胞間隙部の抵抗を低下及び膜キャパシタンスを増大させ,このとき,FD4Kの透過性を上昇させていることから,C10は細胞間隙経路に有効に作用し,またこの作用は可逆的であることが示された.C10の作用はカルモジュリン阻害剤W7存在下で抑制されるところから,C10作用にカルモジュリン依存性のアクトミオシン(AM)収縮機構が関与していることが示唆された.また他の促進剤アシルカルニチンの作用はW7による抑制はなく,C10との作用機構の差が見出された.上記の作用及びその機構は,ヒト結腸癌由来のCaco-2培養細胞においても確認された.この培養細胞において,グルコースによるC10作用の抑制が見出された.またC10により細胞内Ca^+レベルが上昇し,W7によりその増大が抑制されることから,細胞内Ca^+レベルの上昇が上記のAM収縮に関係すると考察された.パイエル板(PP)におけるBSA及びレクチンの一種コンカナバリンA(ConA)の透過性はPPの方が通常上皮よりも大であり,特にConAはM細胞表面のマンノース認識部位を経由した吸着性エンドサイトーシスにより,膜透過することが示唆された.さらにBSAをConAとConjugateさせたときに透過が上昇することも確認している.また,BSAを含有するマイクロスフェアーの調製も可能となり,現在PP指向性製剤の開発を進行中である.以上,本研究では細胞間隙経路に対するC10の作用及びPPの有効利用を通して,高分子物質の吸収改善に有用な知見が得られた.
|