研究概要 |
人骨髄性白血病細胞株HL-60細胞のTPAによる単球系細胞への分化誘導能がCキナーゼ系(特にβタイプ)と密接に関連するばかりデなく,レチノイドによる顆粒球系細胞分化にも関与する事が明かとなった。HL-60細胞の分化能は各種プロテインキナーゼのなかでもCキナーゼ系と密接に関連すると考えられる事から各種白血病患者から単離した白血病細胞のCキナーゼ活性とそのサブタイプ(α,β,γ)発現をFAB分類,細胞表面マーカーとの相関性を検討した。ALLおよびCLLなどのリンパ系白血病補胞のCキナーゼ活性はAML細胞に比し有意に低い。AML細胞をリンパ球表面マーカーを有する群と有さない群とに分類するとM1 AML細胞でCキナーゼ活性は低くM4 AMLで高値を示した。Cキナーゼサブタイプの発現は各症例間で多様であったが,リンパ系及び骨髄系白血病細胞ともにα型及びβ型が細胞質画分の主要なCキナーゼであり,γ型が膜画分の主なCキナーゼであった。リンパ系白血病細胞は全例細胞質画分にγ型Cキナーゼを有しており,またリンパ球表面マーカー陽性のAML患者細胞の85%にも細胞質画分にγ型Cキナーゼが認められた。このようにCキナーゼの活性及びそのサブタイプ発現は各種白血病患者細胞間で多様性を有しているが,Cキナーゼ系は血球分化過程で発現調節がなされているものと考えられる。蛋白リン酸化反応はプロテインキナーゼ系とホスファターゼ系により調節されているので,HL-60細胞の分化における蛋白脱リン酸化酵素ホスファターゼの動態についても検討した。ホスファターゼはレチノイドによる顆粒球系分化誘導刺激によりその活性及びホスファターゼ2Aの発現が選択的に減少する事が判明した。更に,ホスファターゼ阻害剤であるオカダ酸やカリクリンがレチノイドによるHL-60細胞の顆粒球系分化誘導を促進するがTPAによる単球系細胞分化には影響を与えない事が明かとなった。HL-60細胞を用いた血球細胞の分化モデルでプロテインキナーゼ系ばかりでなくホスファターゼ系も重要な役割を演じているものと考えられた。血球細胞分化誘導刺激によるトポイソメラーゼ活性の動態については現在検討中であり今後の研究課題である。
|