研究概要 |
内科領域での高アンモニウム血症は、主に肝不全、その他は稀にasparaginaseの治療などによって生じることが知られている。しかし骨髄腫によって高アンモニウム血症をきたすことはほとんど報告例がない。我々は肝不全によらない原因不明の高アンモニウム血症を示した骨髄腫症例を2例を経験し、報告した(Acta Haematol.84:130-134,1990)。2例共に高アンモニウム血症の他、血中アミノ酸の異常をも示し、同様のパターンを示した。一例はBenceJone蛋白(λ)型で、もう一例はIgA・κ型であったが、骨髄腫の治療で、高アンモニウム血症と意識障害とが改善した。2例共すでに永眠しているが、剖検で肝はほぼ正常であった。IgA・κ型骨髄腫症例より細胞株(KHM-4)の樹立に成功した(Internal Med.31:339-343,1992)。この細胞株はHLA-DR、T10、細胞質内免疫グロブリン(IgA・κ)が陽性で、骨髄腫細胞の性状を示した。この細胞株を用いin vitroで検討した結果、KHM-4細胞をL-glutamine,L-arginine存在下で培養すると、培養上清中にアンモニアが産生されることが判明した。L-glutamine存在下でのアンモニア産生は、T細胞株であるCEMでも認められたが、アンモニア産生量はKHM-4細胞の方がCEMに比べ多かった。L-arginine存在下によるアンモニア産生は、CEMでは認められず、KHM-4細胞に特異な現象と思われた。そこで細胞質内のオルニチンサイクルにかかわる各酵素arginase,orinithine transcarbamylase(OTC),やarginine deiminaseなどの活性を測定したところ、OTC活性が有為に高いことが示された。in vitroで認められたアルギニン存在下でのアンモニア産生はOTC活性のためと考えられたが、細胞株をマイコプラズマ除去剤で処理するとOTC活性が消失することから、患者に認められた高アンモニア血症は説明できないかもしれない。さらなる酵素学的検討が必要である。
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