研究概要 |
微生物に対する生体の防御機構に及ぼす身体鍛錬の影響を明らかにするために,表皮ブドウ球菌(Hー155)を抗菌活性の指示菌株として用い検討した。対象者には、鍛錬群として日頃積極的に身体運動を行っている陸上競技部員5名と非鍛錬群として一般健康学生7名を用いた。トレッドミルによる最大運動負荷試験により各対象者の最大酸素摂取量(VO_2max)を測定し,同時に運動負荷試験前後に無菌的に採血された血清を用い抗菌活性測定を行った。抗菌活性の測定は,寺崎プレ-ト内で0.01モルのTrisーHCI buffer(pH7.2)を用い2倍および3倍連続希釈された血清に細菌懸濁液5μlを添加し,湿潤環境内で37℃に16時間保温後,細菌の成長を抑制できた最高希釈倍数を観察することにより行われた。 最大運動負荷試験により測定した鍛錬群のVO_2max(69.6±5.5ml/kg/min)は非鍛錬群(43.0±6.9ml/kg/min)に比べ有意(p<0.001)に高値を示した。また,運動前の抗菌活性の最高希釈倍数は鍛錬群で13.6±2.2倍,非鍛錬群で5.4±2.1倍を示し,鍛錬群が有意(p<0.001)に高い抗菌力価を示した。鍛錬群のHDLーコレステロ-ル値(46.4±2.3mg/dl)は,非鍛錬群(35.0±3.1mg/dl)より有意(p<0.001)に高値を示したが,トランスフェリンについては両群間に有意な差は認めなかった。運動前の抗菌活性値とVO_2maxおよびHDLーコレステロ-ル値の間には,それぞれr=0.76,r=0.80の高い相関関係(p<0.01)が認めれれた。 本研究結果は,身体運動が微生物に対する防御機構に影響を及ぼしていることを示唆する。表皮ブドウ球菌に対する制菌作用はある種の蛋白によって行われると考えられ,トランスフェリンやβーリジンの他に身体鍛錬度と関連して増加するHDLーコレステロ-ル(アポ蛋白AI)などが関与している可能性が考えられた。
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