研究概要 |
身体に障害をもつ人々の健康維持や体力向上を図るためには,まず,残存する能力を充分に活用でき,潜在能力の導出が期待される運動様式を選択することが重要である。本研究では二分脊椎症児を対象にこの課題に取り組んだ。二分脊椎症児の運動能力特に移動能力は10〜20歳の間で低下し始めることが報告されており,本研究でもこれを確認してきた。その主な原因は体重の増加に伴って身体活動時の負担が大きくなり,疲労を起こし易いためである。これが寡動な状態を誘発し,過剰な脂肪の蓄積や運動能力の低下を加速化する。事実,本研究でも,彼らの体脂肪率が健常児よりも高く,その加速化は運動能力が低下する時期と一致することを明らかにしてきた。これを防御するためには早期から全身的な運動プログラムと栄養管理を開始することが必要である。しかし,彼らが全身的な運動をしようとしても,下肢の弛緩性麻痺のために何れの運動様式でも可能というわけにはいかない。本研究では二分脊椎症児の至適な運動様式として水泳に注目した。対象は36名の二分脊椎症児であり、水泳を通して発揮する運動強度とスキルを評価した。記録は心電図,水泳速度,ビデオ撮影について行った。その結果,定期的な水泳訓練を受けている者15名全員および訓練を受けていない者21名中11名が140拍/分以上の心拍数を示した。120拍/分の心拍数を考えると,非訓練児1名を除き全員がこの水準を越えた。この心拍数で示された運動強度は呼吸循環機能の改善を期待させ,肥満対策にも有用である。また,水泳時のエネルギー消費効率や麻痺レベルとの関係を検討した結果,水泳技術の向上がより高い運動強度をもつ水泳を可能とすることが明らかになった。特に、下肢に弛緩性麻痺をもつ二分脊椎症児に対しては健常な機能を残存する上肢を中心とした技術指導が重要であることが示唆された。
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