研究概要 |
ウサギ腹腔内に酢酸コルチゾンを投与(48時間後の胸腺組織を解析すると胸腺皮質細胞の著明な消失が特徴的に観察された。同様の変化は500ラドのX線を全身照射した場合にも観察された。しかし免疫抑制剤サイクロスポリンAXFK506の投与では観察されなかった。後者の免疫抑制剤FK-506はむしろ髄質リンパ球の消失を促進する傾向が強かった。これらの処理前後の細胞膜糖脂質抗原の変化を調べると,酢酸コルチゾンでは皮質リンパ球のマーカー分子VI^3NeuGc-nLc_6CerとIV^3NeuGc-nLc_4Cerが約1/8の濃度にまで減少しており,X線照射でも同程度の減少が観察された。従って膜抗原から判断できる皮質細胞の消失率はほぼ1/8に達すると言える。一方,胸腺マトリックスに主として分布しているII^3NeuAc-LacCerは酢酸コルチゾン投与によって逆に約3倍に増加しており,X線や他の免疫抑制剤では変化しなかった。酢酸コルチゾン処理後の胸腺をほぐし,^<14>C-MauNAc又はCMP-^<14>C-ManNAcと反応させると^<14>CManNAcはもっぱらII^3NeuAc-LacCerの合成に用いられ,酢酸コルチゾン処理の有無にかかわらず合成活性に違いは見られなかった。しかし,CMP-^<14>C-NeuAcを前駆体にするとII^3NeuAc-LacCerの合成は酢酸コルチゾン処理胸腺にのみ認められることから,酢酸コルチゾン処理によって増加するII^3NeuAc-LacCerの合成は胸腺マトリックス細胞の膜表面に存在するシアル酸転移酵素によって行なわれている可能性が示唆された。次に酢酸コルチゾン処理と未処理胸腺のマトリックス細胞を培養に移し胸腺皮質細胞の結合を調べると,処理胸腺マトリックス細胞には全く結合できず,未処理細胞には結合できることが明らかになった。しかし,脾やリンパ節のリンパ球はほとんど結合できず,胸腺リンパ球には胸腺マトリックス細胞と結合するための特異的分子が存在していることが予想された。細胞のシアル酸転移酵素の高い活性は,培養後3日間は維持されていた。
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