研究概要 |
近年、大気中のトロンに関して、壁の近くや地表近傍でその濃度が極めて高く、人間の呼吸器被曝や地表に生息する小動物への影響などが無視出来ないことが見出され,その濃度分布や挙動が注目を集めている。 本研究では、地表面からのトロンの逸出や地表近傍でのトロンの垂直方向への拡散などの挙動を詳しく調べるため、2ーフィルタ-法を用いて地表近傍のトロンの垂直分布の連続測定を行ない、同時に測定した風速などの各種気象要素との関係を解析した。 測定結果では、地表極く近く(地上高3cm)のトロン濃度は、静穏な日には日変化を示し、300Bq/m^3に近い値まで観測され、地上高1mの濃度の数〜十数倍(季節や天候により異なる)であった。また、トロン族からの放出α線エネルギ-は、地上高3cmでは、ラドン族の数〜数十倍となり、小動物などへの影響は大きいと考えられる。地表近傍のトロン濃度と気象要素との関係では、濃度は風速と逆相関を示し、地表に近い方がその傾向が強く、風速が大きい場合には、地表面から逸出して来たトロンが速やかに上空へ拡散していることが判った。また、風速が小さい静穏な日が続いた場合には、地表近傍のトロン濃度は大気圧と逆相関を示し、大気圧の低下に伴い地表面からのトロンの逸出量が増加するものと考えられる。しかし、屋外大気中では風速の影響が第一義的であり、大気圧の変化に伴うトロン濃度の変化が明瞭に観測される事例は多くない。その他、トロンの地表面からの逸出量は、地表面の状態により変化し、降水時などで地表面が濡れている状態の時は、トロン濃度のレベルはかなり低下する。トロンの地表面からの逸出や大気中での拡散については、さらに理論的な解析を行なう予定である。 本研究の成果は、日本原子力学会1992年年会に「地表近傍のトロン濃度と大気圧の関係」と題して発表する。
|