研究概要 |
近年,微量な放射線は,生体に刺激作用や活性化現象をもたらすことが実験的に明らかになりつつある。放射線にもホルミシス効果があるこということで放射線防護や放射線治療の面からも大いに注目されている。生物個体に機能基盤をなす細胞レベルでは,極低線量の放射線に応答して染色体異常や突然変異の誘発に対して細胞が耐性になることが見つかっている。これまでの研究により,この低線量放射線による耐性獲得には未知の染色体損傷の適応修復機構が関与することが示唆される。本研究では,放射線ホルミシスの基礎をなす生物反応である「放射線適応応答」に関与する適応修復機構の解明を最終目標とし,そのアプローチとして,他のストレス要因に対する適応応答と比較しつつ,低線量放射線に反応しホルミシス効果をもたらす遺伝子の実在を証明し,その発現過程の制御機構を明らかにすることを目指す。チャイニーズハムスター(V79)培養細胞を用いて以下の実験結果が得られた。1.タンパク合成阻剤(シクロヘキシミド),RNA合成阻害剤(アクチノマイシンD,αアマニチン)やタンパクキナーゼ阻害剤(H-7)により,極低線量放射線による適応修復の誘導発現が抑制された。この適応修復の誘導発現はRNA,タンパク質合成,細胞内シグナル伝達機構を介した能動的な過程であると考えられる。2.2次元電気泳動法による誘導合成タンパク質の解析から,極低線量放射線照射後に複数種(約5種)のタンパク質の誘導合成が起こることが示された。これらのタンパク質は金属によるものとはかなり相違していた。3.本研究費補助金により購入したサーマル・サーマルプログラマーを用いて,極低線量放射線を照射された細胞および無処理の細胞からポリ(A)メッセンジャーRNAを抽出し,厳密な温度制御下で無細胞翻訳系によるタンパク質の合成を行ったが,再現性に問題があることがわかり現在再検討中である。
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