研究概要 |
本年度は,日本最大の鉄鋼メ-カ-である新日本製鉄(株)の製鉄所が立地する5都市と,川崎製鉄(株)の製鉄所が立地する1都市とをとりあげて,各製鉄所の立地経緯と現況および今後の展望について,製鉄所および各市の企画関係部局においてヒヤリング調査を実施した。 新日鉄は1987年の第4次合理化で,君津と名古屋,大分,八幡を「総合製鉄所」に,室蘭や釜石などその他を「専門製鉄所」にすることを決定した。「専門製鉄所」に転換することが決まった室蘭は高炉が2基から1基へ,そしてその1基も新日鉄から分離することになった。総合製鉄所と位置づけられた4製鉄所も再編成をまぬがれなかった。君津は首都圏内にあり東京湾横断橋の建設によって川崎市と直結するということもあり,新日鉄の中核的製鉄所の役割を強めている。1991年には隣の富津に,それまで八幡と日吉,相模原にあった研究所を移転総合し,総合技術センタ-が設立された。名古屋は日本最大の自動車メ-カ-が近くにあることもあり,計付加価値の薄板を生産している。八幡は伝統ある製鉄所であるが,最新鋭製鉄所が大分にできると,大分が上工程,八幡が下工程を担当するという分業体制をとることになった。調査を実施したこれらの製鉄所のなかで,地域経済との関係で問題となっているのは室蘭と八幡とであった。他の製鉄所の場合は,市民とのつながりは「製鉄所祭り」などに限定されているが,室蘭と八幡は合理化にともなって生じた遊休地の活用が重要な課題として揚げられている。当該市にとってこれらの遊休地は広いだけでなく,一等地であることもあり,この活用の仕方次第で,今後の地域経済の浮沈が決まってしまうのである。地域への技術移転の取り組みやレクリエ-ション施設の建設などがすすめられているが,調査時点では北九州のスペ-ス・ワ-ルド以外については,その波及効果を調べることはできなかった。
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