研究概要 |
視細胞の順応を分子レベルで理解するためには,視細胞でのcGMPの代謝変動に関わる酵素系及びそれらの調節タンパク質の諸機能を理解する必要がある.本研究計画では,このことについて以下の成果を得た. 1.cGMP合成酵素グアニレートサイクレース(GC;110kDa)遺伝子のクローニングと抗体を用いた細胞内局在の検討.初年度にN末端を含む数ヵ所のアミノ酸配列を知ることができ,PCRによる遺伝子増幅で有望なDNA断片を得ることができたが,その時点で競争に勝利する見込みが薄かったため,独自のクローニングを断念した.昨年秋米国の研究者によってヒト網膜のGCをコードするとみられる遺伝子が単離され,われわれが決定したものとほぼ同一のアミノ酸配列が認められ,遺伝子のレベルからも110kDaのタンパク質がGCであることが確認された.抗GC抗体作成については,GCそのもの及びN-末端の合成ペプチドについて試みたが,今の所,有効な抗血清が得られていない. 2.GCの調節に関する26kDaのCa^<2+>結合タンパク質(Recoverin:Rec)の機能.精製GCを組み込んだ膜系を再構成し,Recが直接GCを調節する能力を持たないこと,免疫化学的検討によってRecがGC以外の50kDa程度の未知のタンパク質とCa^<2+>依存的に結合することを明らかにした. 3.cGMP分解酵素(PDE)の阻害サブユニット(Pγ)のリン酸化の生理的意義.カエル網膜上の視細胞外節中で光依存的なPγのin vivoリン酸化を確認する事ができた.また,Pγをイノシトールリン脂質(PI)依存的にリン酸化するプロテインキナーゼの同定と精製に関しては,その酵素がCa^<2+>によって外節膜から遊離されること,視細胞ではまだ報告されていない42kDaのプロテインキナーゼであることが分かった.リン酸化型Pγを調製し,そのPDE抑制作用やGTPaseへの作用を検討する計画であったが,現在,大量のPγの簡便な調製方法を確立した段階で,この重要で興味ある課題が残された.
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