研究概要 |
公共財的性質を持った社会資本を供給する際に、その社会の成員が自己の利得を最大にするように行動した結果、パレ-ト最適な社会資本配分がなされていればよい。理論的には、そのような制度をデザインすることが不可能であることが知られているが、パレ-ト最適性を要求せず、各成員の現状を少なくとも保証し、与えられた制度の中で、自己の利得を最大にするようにできるのであろうか。この問いに対する否定的な結論を示したのが、Saijo(1991,JET,項目11参照)である。さらには、メカニズム・デザインにおける主要な成果が西條(1991,項目11参照)において要約されている。また、公共財供給におけるよく知られた中立性命題が推測的変化のもとでは、ほぼ成立しないという結果もSaijoーTatamitani[2]で報告されている。 否定的な理論的結論は、実験の環境でも確認されるのであろうか。社会資本整備の財源調達を各成員の自発的な寄付に求めた場合、どのようになるのであろうか。理論的には、各成員が他の成員の寄付によって構築される社会資本の便益に「ただ乗り」する結果、財源は全く調達されない。この理論的結論に対し、実験環境ではかなりの比率で寄付が観測されている。IwakuraーSaijo[1]では、先行研究における情報の不完全さに着目し、情報が完全になればなるほど寄付が行なわれなくなることを報告している。さらには、他の成員に寄付行動に関わりなく、寄付をすればするほど得をするという環境において、かなりの成員が寄付をしないという驚くべき結果が、SaijoーYamaguchi[3]で観察されている。 財源は確保されたとし、公的契約を行なう際、入札者の間で会話が許されたらどうなるのであろうか。互いに知り合いでない被験者を集め、談合実験を行なったところ、情報の公開非公開、入札者の人数の大小などの環境変数の如何に関わらず、初対面の被験者が特に専門知識を有していない状況で、簡単に談合が行なわれ、しかもそこでの約束が十分にまもられているという結果をSaijoーYamaguchi[4]が検証している。この研究は談合阻止メカニズムの設計というテ-マへの第一歩である。 本研究は、すでに萌芽的研究の域を超えているといえる。理論的な成果が実験計画を生み出し、そこで得られた実験結果が新たな実験のデザインと理論改訂への示唆となるという好循環が生まれている。実験設備および被験者への支払となる実験資金が継続的に供給されることになれば、実験経済学は経済学の重要な一分野となるであろう。 [1]Iwakura,N.and T.Saijo,“Payoff Information Effects of Public Good Provision in the Voluntary Contribution Mechanism:An Experimental Approach"mimeo.,September 1991(北海道大学における1991年度理論計量経済学会報告論文). [2]Saijo,T.and Y.Tatamitani,“Characterizing Neutrality in the Voluntary Contribution Mechanism,"mimeo.,December,1991. [3]Saijo,T.and T.Yamaguchi,“The“spite"Dilemma in Voluntary Contribution Mechanism Experiments,"mimeo.,February,1992(Public Choice Meetings at New Orleansにて1992年3月報告予定). [4]Saijo,T.and T.Yamaguchi,“Public Contracts and Efficiency:“Dango"Experiments"(論文作成中).
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