研究概要 |
研究目的の方針に沿い,非可換確率論・エントロピ-論・確率過程論の観点から以下のような研究を行なった. (i)平衡近傍での線型不可逆統計力学を無限自由度量子系の非線型応答論に拡張して,エントロピ-生成概念の定義と正値性の一般証明を与え,非平衡不可逆領域への移行で条件付期待値が果たす役割を解明した.(小嶋) (ii)合成系から部分系を取り出す際の状態相関に由来する量子系の逆説的振舞として有名なEinsteinーPodolskyーRosen問題に関し,合理的な定式化と解釈のためstate preparationの観点からその状態相関の特殊性を解明した.今後,非可換確率論での非可換量同時測定としての定式化により,理論的深化が期待される.(小嶋) (iii)ランダム行列の固有値分布をスケ-ルに沿って描く時現われるカオス的振舞は,量子カオスの問題として知られている.この統計的性質とある種の可積分力学系との奇妙な深いつながりにつき,Lie群上の共役随伴軌道法により本研究でその本質を明確にした.(長谷川・小嶋) (iv)非可換確率論・量子情報理論の実基的応用の典型的事例である光通信において,入力信号に応じた伝送路の分岐選択的取替え過程を記述するため導入された条件付ユニタリ-過程の概念につき,その整合的定式化の問題を議論した。また量子チャンネルの数学的構成法に基く函数解析的研究として,量子相互エントロピ-の非可逆過程への応用,量子制御通信過程における誤り確率の数学的導出と計算等を行った.(大矢・小嶋) (v)古典系,量子系を含む一般量子系の複雑さの数学的定式化のため,フラクタル次元と量子εーエントロピ-を導入し,具体的な力学系への応用を議論した.(大矢) (vi)確率過程論への微分幾何学的視点導入のため,Wiener空間の上の非線形写像や微分形式を研究した.(楠岡)
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