研究概要 |
シクロデキストリン(CD)を反応場として用いることにより、種々の触媒反応に、高度な選択性等を付与することを目的に、これまでに有機金属ーCD複合系の性質等について検討を行ってきた。本研究では、以下の1),2)に関して検討を行ったので報告する。 1)有機金属錯体の反応として金属ー炭素間への挿入反応を選び、CDが形成する反応場の影響について詳細に検討を行った。先ず、錯体としてシクロペンタジエニルアルキル鉄錯体を選び、CD包接体の合成を行った。空洞内径の異なるαー,βー,γーCDいずれの場合でも包接体を得ることができたが、その組成比(鉄錯体:CD)は、αーCDでは1:2、βー,γーCDでは1:1であり、空洞内径の違いで組成比が変化することがわかった。続いて、得られた包接体に無溶媒、固体状態で、一酸化炭素、二酸化硫黄、トリメチルホスフィンを反応させた。その結果、CDの空洞内径の違いにより反応剤の鉄ー炭素結合への挿入が制御され,各包接体の反応性は空洞内径の大きさの順に増大することが解った。特に二酸化硫黄を用いた場合には、CDによる反応制御が最も顕著に現われ、αー,βーCD包接体では全く反応が進行しなかったのに対して、γーCD包接体では定量的に反応に進行した。このように有機金属錯体の反応が反応場の空間により制御されたのは、本研究の例が初めてである。 2)カルボニル化反応の触媒と成りうる種々の金属カルボニル類のCD包接体の合成を試みた。その結果、単核のCo(NO)(CO)_3,Fe(CO)_5ではαー,βー,γーCDと、また二核錯体のCo_2(CO)_8,Mn_2(CO)_<10>ではγーCDとのみ包接体を形成することを見いだした。しかし、M(CO)_6(Cr,Mo,W)、ならびにFe_2(CO)_9ではいずれのCDとも包接体を得ることはできなかった。また得られた包接体の熱安定性を検討したところ、金属カルボニル単独の時に比ベ、熱安定性は増大していることが解かった。今後、得られた包接体を用いてカルボニル化反応等の触媒反応を検討して行きたい。
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