研究概要 |
顕微鏡の鏡筒を利用して,レーザ光のスポットを容易に微小電極上に集光する光学系を作製した。この光学系により従来に比べ極めて簡単に光学的調整が行なえるようになり,実験が能率よく実施できるようになった。さらに,この光学系はレーザ光電気化学検出器のプロトタイプとなりうる。レーザ光照射によって生じる光誘起電流としてまず電極反応に及ぼす熱的な効果を検討した。すなわち,ヘキサシアノ鉄(II)イオンの鉄(III)への酸化反応において,レーザ光照射はこの酸化反応を促進した。これは酸化反応のエントロピー変化が正であるため,電極上の温度上昇が反応の促進をもたらすと説明できる。反対に鉄(II)アコイオンの鉄(III)アコイオンへの酸化反応では,電極反応が抑制された。これはこの酸化反応のエントロピー変化が負であることに対応する。このように,レーザ光照射の電極反応に対する熱的効果は電極反応のエントロピー変化の検出に利用できる。次に溶液バルク中での光化学反応と電極反応を組み合わせた接触的な電気分析化学を検討した。トリスオキサラト鉄(III)錯体は広く化学光量計として利用されている物質である。この鉄(III)錯体溶液をフローさせながら電極に488nmの波長のA^+_γレーザ光を照射するとき,電極近傍の鉄(III)錯体は光化学反応により鉄(II)錯体に還元される。適当な電位においては還元された鉄(II)が電極反応によって再び鉄(III)錯体に酸化され,これが繰り返し起こることによって接触的な反応が起きることを期待した。比較的大きな白金電極では,光誘起電流は確かめられたが接触的反応が生じているかどうかについては確認できなかった。しかし,電極を直径10μmの微小電極にかえることにより,光誘起電流は非照射時電 の数倍にまで増大し接触反応がおこっていることが確かめられた。これはレーザ光の集光性の良さと微小電極の効果によるもので,分析化学的に有効である。
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